2005/09/19//Mon. 06:30
Art Farmer "Art" (1960)
時折ジャンルというものが恨めしく思うときがある。ジャンルなんてなければいいのに、ジャンルなんて無意味だ、と。20代後半になるまで、ビートルズとジャズが大嫌いだった。「そんなもの聴くか」と思っていた。ビートルズは優等生的なイメージが、ジャズはコジャレたイメージが嫌だった。今となっては後悔している。もっと早くから聴いておけばよかったと思っている。
「ジャズ」というだけで「難しい」「わからない」といって敬遠している人も多いと思う。でも、そういう垣根を作ってしまうのは勿体無さ過ぎないだろうか?
別に「ジャズ」と名がつく音楽が全て素晴らしいといっているわけではない。特に近頃のジャズは俺にもよくわからん。「ドラえもん」の歌をジャズ・アレンジで演奏してみたり、さして感心する演奏をしているとは思えない綺麗な女性ピアニストを売り出してみたり、ビリー・ホリデイそっくりな声で歌う歌手が出て来たり。
「ジャズ」が全て素晴らしい訳ではないのと同様に、「ジャズ」が全て難しい訳でも下らない訳でもない。いいものはいいし、よくないものはよくない。
アート・ファーマーを聴いたのは初めてだった。ヒゲおじさんがトランペットを妙な持ち方で支えている絵のジャケットは、愛らしくもあり非常に印象的だったので以前から気になってはいた。
部屋で雑用をしながら何気なくこの "Art" を流した。1曲目。湿った音で落ち着きながらもスウィングし出すファーマー。途中から突然炸裂するようにブロウし始め、ドライヴ感が増す。「おや」と思って手を止めたがまた雑用に戻った。
2曲目、"Goodbye, Old Girl" でファーマーの一音が流れ出した途端、何も手につかなくなった。
この曲を聴いて湧き上がる感情をなんと表現したらいいのだろう? ファーマーが紡ぎ出すメロディは爽やかでもあるし悲しくも聴こえる。過去の日々を思い返しながら、苦い経験も他人も自分自身をも、全てを赦そうと思えるようになった時の開放感。フラナガンが「それでいいんだよ」とピアノで優しく囁く。ベースとドラムが静かに波立っている。
聴きながら不覚にも涙が流れそうになった。
こんな感触はジャズは勿論、他のジャンルの音楽でも味わったことはなかった。そのせいか、他の曲はれっきとした「ジャズ」なのだが、アルバム全体を聴いていても「ジャズを聴いている」という意識がない。ただただファーマーの「歌声」を聴いている、という感触しかない。
「歌声」を支える人たちも素晴らしい。ピアノはトミー・フラナガン。「名盤の影にこの人あり」。ロリンズの「サキコロ」で演奏していた人だな。「サキコロ」ではスウィングしまくりだったという記憶があるが、この盤ではかなり大人しい。ドラムとベースは申し訳ないが全く知らない。解説によればファーマーが組んでいた「ザ・ジャズテット」のメンバーとのこと。3人ともでしゃばるような演奏は決してしていない。だからこそファーマーが引き立って聴こえるのだろう。
"Goodbye, Old Girl" 以外の曲も全て心地よい演奏だ。原曲は主にミュージカルや映画の主題歌から取っているとのことだがあまり有名な曲がない。スタンダードとして手垢のついていない曲を慎重に選曲したのだろう。"Goodbye, Old Girl" も「くたばれ!ヤンキース」という映画の主題歌らしいが知っている人が果たして何人いるのだろうか? "Old Girl" は「昔馴染みの女友達」なのか、「ずっと付き合っていた彼女」なのか、はたまた「中年女」なのか? 知りたいところではあるが、ファーマーの歌声とフラナガンのピアノを聴いていたらどうでもよくなってしまう。
このアルバム、聴き始めてから1日しか経っていないが、俺にとっては既に「超」がつく名盤になってしまった。
ジャズを敬遠している人、このアルバムを聴いたことがない人は、 "Goodbye, Old Girl" だけでもいい、是非とも聴いて欲しい。きっと「ジャズ」なんてジャンル分けがくだらないと感じることだろう。
1. So Beats My Heart For You
2. Goodbye, Old Girl
3. Who Cares
4. Out Of The Past
5. Younger Than Springtime
6. The Best Thing For You Is Me
7. I'm A Fool To Want You
8. That Old Devil Called Love
Art Farmer (tp)
Tommy Flanagan (p)
Tommy Williams (b)
Albert Heath(ds)
Recorded September 21-23, 1960, NY
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