My Groove Your Move

〜偏愛的ディスクレビュー Ver.2〜


ジャズ、クラシック、ロック、ソウル、R&B。 ジャンルや新旧にとらわれず、おすすめ盤を紹介します。
2007/12/26//Wed. 20:25
 単なる準工業地帯だった隣町が地域開発され、マンションの建設が始まったのは五年ほど前だった。建設が終わるのとほぼ同時に種々の店舗が周囲に立ち並びはじめた。スポーツ・クラブ、カラオケ・ボックス、居酒屋、レストラン、洋服屋、100円ショップ、携帯電話販売店、ジャンクフード屋にコンビニが4店舗。おまけに大手レンタルショップも支店を出した。

 俺の町にはレンタルビデオ店はあるがCDはあまり置いていない。あったとしてもリマスターされていない旧盤。新譜に至っては常に貸し出し中。DVDと違って需要が少ないのだろう、新譜といえども同じCDを何枚も置く余裕はないらしい。DVDとビデオに関しては、あらゆるジャンルの映画やテレビ番組が置いてあるから仕方ないかもしれない。

 隣町の目的のレンタルショップまでは歩いて30分近くかかる。買ったほうが早いと思いつつも買うほど欲しいものではない。レンタルで充分なのだ。面倒だったが、中古屋で買ったばかりのリパッティのブザンソンのライブを聴きながら散歩がてらに行くことにした。

LipattiBesanson01
ディヌ・リパッティ 『ブザンソン音楽祭における最後のリサイタル』
Dinu Lipatti "His Last Recital At Besancon Festival"
(東芝EMI TOCE-8351)

 クリスマスということもあってか駅周辺はきらびやかなイルミネーションで飾られていた。恋人同士が睦まじく歩いていてもおかしくはない光景だが土地柄もあってか家族連れや友人同士で近くに遊びにきた、といった輩がほとんどだった。

 レンタル屋には目的のCDがなかった。全く同じCDを5,6枚ストックしている筈なのに全て貸し出し中。仕方無しに他のレンタルCDや販売CDを覗いてみた。ちょうど聴いていたリパッティのCDがリマスターされて新品で売っていた

 店を出て煙草を吸おうとしたがライターがなかった。煙草も1本しかない。こういうときにコンビニがあると便利なのだが、心配するな、4件もある(笑)

 一番近い所に入った。カウンターの背後に煙草とライターが置いてある。中では若い女性が万札を数えていた。
 
 俺が近寄ると彼女は慌てて万札をバックヤードに置きに消えてゆき、走って戻ってきた。恐らく二十歳前後の学生だろう、ボーイッシュに切った髪型と大きい瞳、健康そうな体格が印象的だった。クリスマスの夜にこんな所で君みたいな素敵な女性が何をやっているんだ?と言いたくなった。

 "But what's a sweetheart like you doin' a dump like this ?"

 この街は決して "dump" ではないけれど、ふとそんな歌詞が浮かんだ。

 「116番の煙草と、そこのライターを下さい」
 「これはワンカートン買ったときの景品なんです。売っているのはこっちの方です」
 息を切らしながら彼女は言った。
 
 彼女の瞳を見た。美しい目をしていた。引き込まれそうになった。
 
 「じゃあ、このライターでいいです」
 金を払って店を出た。
 
 喫煙スペースで古い方の箱から残りの一本を出して火をつけた。一年半も禁煙していたのに、禁酒のつらさに耐え切れず、一日三本と決めて再び喫煙し出してから約一週間、自分に課した制約はとっくに破られていた。リパッティのピアノが耳の中で響いている。
 
 「素敵な曲ですね」
 「ピアニストはディヌ・リパッティ。曲はモーツァルトのソナタ8番」
 「リパッティ? 有名な人なんですか?」
 「そうだね。『夭折の天才』と呼ばれていたらしい。
  50年代に33歳で病死してしまった」
 「そうなんですか。今度探してみます」
 「......10分ほど待っててくれる?」
 「え? はぁ」
 
 レンタルショップに引き返した。
 ブザンソンのライブ盤を引っつかんでレジに向かった。
 「簡単でいいからプレゼント用に包装してください」
 
 店員が包装している間、名刺にメモを書き込んだ。
 店を出て、包装が破れないように名刺を中に入れた。
 
 コンビニに戻ったとき、彼女と目が合った。
 カウンターに寄ってプレゼントを突き出した。
 
 「これだよ、さっきのリパッティのCD。
  今度食事でも行こう。メリー・クリスマス!」
 
 彼女に考える隙を与えずに店を出た。

 
 煙草を吸いながらリパッティのモーツァルトを聴いていると
 そんな妄想が浮かんできた。
 
 20代の俺ならきっとそうしていただろう。
 今は若さも気力も磨り減ってしまった。
 
 リパッティがショパンを弾き始めた。ワルツの9番が流れてくると、
 ある女性と過ごしたクリスマスが甦ってきた。
 
 楽しいクリスマスだったが、今では想い出となってしまった。
 
 美しくて、悲しい想い出。
 
 彼女は向日葵のようにいつも俺を笑顔で迎えてくれた。
 失うまで彼女の大切さが解らなかった。
 
 自分の愚かさに涙しそうになった。
==========================================

 リパッティのテクニックは抜群だ。速い曲でもミス・タッチ一つない。かといって譜面通りに弾いただけの無味乾燥な印象は受けない。スローな曲だとついつい聴き入ってしまう。そこには技巧以外の何物かが潜んでいる。それが何かがわからないのが音楽の面白いところだ。

 リパッティの音源はモーツァルトのピアノ協奏曲21番(指揮:カラヤン)目当てで輸入盤5枚組ボックスを格安で買ったのだが音質が悪くて聴くに絶えず、仕方無しにショパンのワルツをBGM代わりに聴いていた程度だった。つまり本気で聴いてなかったのね。

 だが先日ウニオンでかかっていた曲がどうも気になり店員に尋ねたところシューベルト即興曲第3番:D.899-3とのこと。CD自体は旧企画だったのでARTリマスターの日本盤新品を探したが、どうやら東芝の1500円シリーズの一環に入ってしまったようで、ジャケットの表面はまだ許せるとしても裏面の曲目表記がなんだかダサくて気に入らず、結局旧企画盤を買ったのだった。

 本当は輸入盤で入手できればいいなと思っていた。ジャケットはいたって普通だしARTリマスターされているから、多少の音質の違いはあるかもしれない。

Great Artists of the Century DINU LIPATTIGreat Artists of the Century DINU LIPATTI
Dinu Lipatti

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 旧企画盤はジャケットに写っているリパッティが斜に構えていて妙に格好よく、タイトルの配置や全体の色使いも気に入ったので結局これを買った。いずれにしろ50年代の音源だから、日本で24bitリマスターしてもそれ程の差は出ないだろうからジャケットで選んだ方がいいという結論。

 肝心の内容だが曲順が緻密に計算されているようで、テンポの速い曲、スローな曲を(あるていどまとめて)交互に配置している。つまり観客を飽きさせないように起伏を作っているわけで、「もう一度最初から聴きたい」とついついリプレイしてしまうのだ。コムツカシイ理屈はさておいて、ピアノが好きな人は騙されたと思って聴いてみるといい。きっといろいろな発見があると思う。

Tr. Song Title
  Applause
1 J.S.Bach: Partita #1 in B flat major BWV.825 - 1. Prelude
2 J.S.Bach: Partita #1 in B flat major BWV.825 - 2. Allemande
3 J.S.Bach: Partita #1 in B flat major BWV.825 - 3. Courante
4 J.S.Bach: Partita #1 in B flat major BWV.825 - 4. Sarabande
5 J.S.Bach: Partita #1 in B flat major BWV.825 - 5. Menuetto I &II
6 J.S.Bach: Partita #1 in B flat major BWV.825 - 6. Gigue
7 Mozart: Piano Sonata #8 in A minor, K.310 - 1. Allegro maestoso
8 Mozart: Piano Sonata #8 in A minor, K.310 - 2. Andante cantabile con espressione
9 Mozart: Piano Sonata #8 in A minor, K.310 - 3. Presto
10 Schubert: Impromptu #3 in G flat major, D.899-3
11 Schubert: Impromptu #2 in E flat major, D.899-2
12 Chopin: Valse #5 in A flat major, Op.42
13 Chopin: Valse #6 in D flat major, Op.64-1
14 Chopin: Valse #9 in A flat major, Op.69-1
15 Chopin: Valse #7 in C sharp major, Op.64-2
16 Chopin: Valse #11 in G flat major, Op.70-1
17 Chopin: Valse #10 in B minor, Op.69-2
18 Chopin: Valse #14 in E minor, Op.Posth
19 Chopin: Valse #3 in A minor, Op.34-2
20 Chopin: Valse #4 in F minor, Op.34-3
21 Chopin: Valse #12 in F minor, Op.70-2
22 Chopin: Valse #13 in D flat major, Op.70-3
23 Chopin: Valse #8 in A flat major, Op.64-3
24 Chopin: Valse #1 in E flat major, Op.18

※ この曲目リストは輸入盤に合わせたものです。試聴する際の参考にしてください。
日本盤は一番最初の拍手(Applause)だけ独立したトラックになっています。
つまり曲目リストのトラック番号+1が日本盤のトラック番号となります。

最近脳が衰えてきたのでrollins1581さんをRさんと略したい(笑)。

こんにちわ。
お久しぶりです〜。

私は何でも悲観的に考えるし、すぐに涙します。
本当は安っぽい男って言うだけなんですが、一応「悲しきロマンチスト」って事にしておいてください(笑)。

だから私の「思い出の中のクリスマス」は、いつを思い出しても何処かしらもの悲しいのです。
でも、ちょっぴりですが、それを楽しんでいたりするのです。

falso URL 2007/12/27//Thu. 00:35 [編集]
ニックネームは?

falsoさんへ
お久し振りです!ダラダラとした文章を読んで頂いて嬉しいです。

>rollins1581さんをRさんと略したい(笑)
 う〜ん、「R」だとなんかイニシャルトークをしているみたいですね(笑)
 今思いついたのですが、「rollins1581」の末尾を取り出して「81」(ハチイチ)というニックネームにする、ということで手を打ちませんか?(笑)冗談で無しに割と語呂がいいかな、と。でもそのうち「はっつぁん」とか「ハチ公」と呼ばれていつの間にか落語のブログに変貌してたりして(笑)面倒なら「R」でもいいですよ〜。
 
>一応「悲しきロマンチスト」って事にしておいてください(笑)
 あ、なんか格好いいなぁ。私も勝手に便乗しちゃおうかな(笑)

>だから私の「思い出の中のクリスマス」は、
>いつを思い出しても何処かしらもの悲しいのです。
>でも、ちょっぴりですが、それを楽しんでいたりするのです。
 悲しみを慈しむことが癒しになることもありますよね。
 ブログに書いた「クリスマスの想い出」はそれほど年数が経っていないので
 そういう境地にまでは至ってませんが、他の「想い出」は
 悲しみを少しだけ味わうことで妙に平穏な気持ちになることがあります。

rollins1581 URL 2007/12/27//Thu. 02:36 [編集]


では、81さん(笑)、こんにちは。
少々ご無沙汰です。
お元気そうで何よりです。

クリスマスと言うと、学生の頃、先輩の家で、男ばかりでケーキを食い、挙句に悪酔いして食べた物全部○○てしまったとか、そんなろくでもないことしか思い出せません。
すいません、失礼しました。(笑)

piouhgd URL 2007/12/27//Thu. 12:51 [編集]
「ハチイチ」の途中で舌噛んだぁ〜。

こんにちわ。
Rさん(若しくは81さん)の文章を読んで、自分も書いてしまいました。そんな事繋がりでTBさせてもらいました(笑)。
私は「ハチイチ」って言い難いんですよ。「ハ・チ・イ・チ」と言っている途中で舌を噛みそうになるんです(笑)。



piouhgdさん、どもども(笑)。
学生にとって12月は『徘徊の月』なんじゃないかと思っています。私も同じ様な経験を『沢山』していますから(笑)。


falso URL 2007/12/27//Thu. 18:48 [編集]
では「R」もしくは「アール」で

piouhgdさん、こんばんは、お久し振りです。こちらこそご無沙汰してます。

>男ばかりでケーキを食い、挙句に悪酔いして
 そういうクリスマスもありですね(笑)。
 私はクリスマスではなく年越しの時に男4人で集まって
 飲んで喋ってまったりして、2人は寝てしまい、挙句、
 テレビで放送してた金田一耕助シリーズを残った2人で朝まで
 見てしまったという経験があります。おー、寒!

falsoさんへ

>自分も書いてしまいました。
 後ほどお伺いします!
 
>「ハ・チ・イ・チ」と言っている途中で舌を噛みそうになるんです(笑)
 では「R」または「アール」にしましょう!

>学生にとって12月は『徘徊の月』
 私は社会人になってもしばらくは徘徊してました(笑)
 でもあの時期があったからこそ自分の限界を知って
 ○○せずに飲めるようになったんです〜。
 今は禁酒してますが(笑)。


rollins1581 URL 2007/12/28//Fri. 02:38 [編集]










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    rollins1581

    Author:rollins1581
    通称: 「R」 または 「アール」

     好きな音楽を聴いているうちに様々なジャンルを聴いていることに気づきました。最近はジャズが中心ですが、かなり節操ありません(笑)。どちらかというと最近の音楽よりも昔の音楽が好みです(80年代以前)。HNはソニー・ロリンズの「ヴィレッジ・ヴァンガードの夜」からとりました。

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